2014/12/27

JPAIS/JASMIN International Meeting 2014 と ICIS 2014 @ Auckland

12月12日から18日まで、研究集会出席のために、初めてニュージーランドの Aucland を訪れた。中心街はこぢんまりしているものの、予想外に坂が多く、港が見える坂道は San Francisco を、港の周辺は Sydney を思い起こさせた。

JPAIS/JASMIN International Meeting 2014


ICIS (International Conference on Information Systems) 2014

櫻井美穂子さん(慶應義塾大)の発表

いつもながら、日本人参加者が少なくて寂しい。少しは改善しているとはいえ、およそ1200人の参加者中日本人は10人ばかり。国力から考えても、人口比から考えても、余りではないだろうか。

2014/12/18

野生の鳥は同調主義者?

日本では、野生動物の文化というと、海水でイモを洗って食べる宮崎のサルだが、英国では牛乳瓶の蓋を破ってクリームを食べる great tit(シジュウカラ、「巨乳」ではない)が有名だった。英国でも日本と同じように、かつては牛乳瓶が毎朝配達されたのだが、日本と二つの大きな違いがあった。

(1)日本の牛乳瓶の蓋は厚紙でとても鳥には破れそうもなかったが、英国の牛乳瓶の蓋はアルミ箔で、鋭い道具(例えばシジュウカラのくちばし)で簡単に破ることができた。

(2)英国で当時配達されていた牛乳は熱殺菌処理がされてなく、直ぐにクリームが分離して上の方に浮かんだ。日本の牛乳はクリームが分離することはなく、長持ちする。筆者は1970年代と80年代に英国に住んだことがあるが、当時の牛乳は冷蔵庫に入れても数日で酸化が始まり、「日本の牛乳は何故あんなに長持ちするのか」と気味悪くなった。

これで、シジュウカラの間に、早朝配達された牛乳を家人が取り入れる前に、蓋を破ってクリームを食べるという美味しい行為が発見され、シジュウカラ社会にこれが拡がって、「動物の文化」の例とされるに至ったのである(この事情は、宮崎のサルに似ているが、サルの話は「創作説」もある)。

Oxford 大学の動物行動学者 Lucy Aplin 博士は、左右どちらからも開いてエサにありつける箱を森に設置し、特定地域のシジュウカラがどちらから開けることを学習するかを調べた。シジュウカラが集団毎に右から開くか左から開くかを学習共有したことは予想通りと言えるが、驚くべきことは、例えば右から開ける集団にいるシジュウカラを左から開ける集団に入れると、従来のやり方を捨てて周りに同調し、左から空けるようになることを発見したことである。

もし、同調という行為が本能に基づくものであれば、「Be different!」などというのは、本来の性質に反するとても無理な行為を要求していることになるのかも知れない。「個性的な人生」や「個性的な考え方」など、幾ら掛け声を掛けても、容易に実現できない訳だ。また、企業などの組織の中で「イノヴェイティヴな人材」などと言ってみても、これは無理な相談だと分かる。皆と同じ同調的な考え方しかできない我々は、安心しても良いことになる。

The Economist の記事
Nature の記事



2014/12/04

成熟技術における技術革新 ー空調ー

空調は今やわれわれの社会生活や産業に不可欠なものとなっているが、これは成熟技術であり、ここ何年かにわたって画期的な技術革新は起こっていない。原理そのものは何十年も同じままである。空調エンジニアリング企業は、既存技術の効率化に知恵を絞っているが、ここまで成熟化してくると、飛躍的な効率の向上は難しい。業界全体が、クリステンセンが指摘する、既存技術の典型的な状況にあると言える。

クリステンセン(2001)『イノベーションのジレンマ』

しかし、地球温暖化が真実だとすれば、今後40年にわたって温帯・熱帯地域の人口が急速に増加することはほぼ確実なので、設置と運用コスト(エネルギー費用)の点で画期的に安価で簡単な空調技術の需要が爆発的に増加することは間違いない。そして、大きな需要があれば、遅かれ早かれ必ず技術革新が起きると見ている。このような従来技術の延長線上にはない、全く新しい技術がでてきたときに、専ら従来技術の精緻化に特化してきた企業群があっという間にシェアを失うことは、歴史が示す通りであり、このことはクリステンセンの前掲書にも詳しい。

そう考えていたら、先週の The Economist に、太陽光を反射する膜をつかって、効率的に室内熱を宇宙に輻射する技術についての記事があった。

Electricity-Free Air Conditioning

勿論未だ研究室段階で実用化までの距離は遠いが、「空調の可能な技術は従来方式だけでない」という好例である。技術革新というのは、一旦弾みがつくと、あちらこちらで次々に新しいアイディアが出て、どんどん進展するようになる。今まで、変化に乏しく、どちらかというと安定した(あるいは退屈な)状態にあった空調業界も、エキサイティングな時代になりそうだ。

2014/07/07

Doesn't practice make perfect in music?  音楽は練習しても仕方ない?

'The Economist' (July 5th, 2014) ran an interesting article titled "Practice may not make perfect".  It claimed that an article published in Psychological Science by Dr Miriam Mosing of Karolinska Institute in Sweden suggested the amount of music practice is not correlated with the music capabilities.

'The Economist'誌 (July 5th, 2014) は、「練習しても無駄かも」と題して面白い記事を載せた。これによると、スエーデン Karolinska 医大の Miriam Mosing 博士が、音楽の練習時間と能力とは相関しないと示唆しているというのだ。

http://www.economist.com/news/science-and-technology/21606259-musical-ability-dna-practice-may-not-make-perfect

This was fascinating.  I got curious enough to search for the original article to know more.  Then even more interesting things happened.

これは面白い。早速、詳細を知るために原論文を捜すことにしたのだが、もっと面白いことが起こった。

When I searched the web site of Psychological Science for Dr Mosing's article, somehow I did not find any.  So, I searched for her publications to learn that she, along with a few colleagues, had published an article in Personality and Individual Differences in 2013, titled "Psychometric properties and heritability of a new online test for musicality, the Swedish Musical Discrimination Test".  In it, the authors said that the training time and the music capability score are correlated with a 0.1% significance level, while there is a moderate heritability, based on a large study on Swedish twins.

Psychological Science 誌のサイトで、なぜか Mosing 博士の論文は見つからなかったので、彼女の業績を捜したら、2013年に数人の共著者と「Psychometric properties and heritability of a new online test for musicality, the Swedish Musical Discrimination Test」と題する論文を Personality and Individual Differences 誌に発表していることが分かった。著者らは、スエーデンの双生児を使ったデータを基に、練習時間と音楽能力スコアは 0.1%有意で相関があり、遺伝の影響は中位であると書いている。

https://www.researchgate.net/profile/Miriam_Mosing/publications

Wait a moment!  This is totally opposite of what the Economist said what Dr Mosing said!!

でもこれって、The Economist 誌が言っていることと、真逆ではないか!

Meanwhile, during my search in Psychological Science, I stumble into another article by three American researchers titled "Deliberate Practice and Performance in Music, Games, Sports, Education, and Professions: A Meta-Analysis".  In it, the authors said that deliberate practice explained 26% of the variance in performance for games, 21% for music, 18% for sports, 4% for education, and less than 1% for professions, and that deliberate practice is important, but not as important as had been argued.  But this means the performances in profession and education are scarcely related with deliberate practice.


さらに、Psychological Science 誌を捜している間に、3人のアメリカ人研究者達が書いた「Deliberate Practice and Performance in Music, Games, Sports, Education, and Professions: A Meta-Analysis」という論文に行き当たった。著者達によると、成績の分散のうち、練習時間の差によって説明できるのは、ゲイムで26%、音楽で21%、スポーツで18%、教育で4%、専門職では1%未満だという。練習は重要だが、今まで思われていた程は重要ではないそうだ。ということは、専門職や教育における成績・業績には練習は殆ど関係ないということだ。


http://pss.sagepub.com/content/early/2014/06/30/0956797614535810.abstract


So where is the truth?  Am I missing something?


一体真実は何処にあるのか? それとも、私は何か見落としている?


Another interesting thing is that the main stream media in Japan will hardly discuss this kind of topics.  Regardless of empirical evidences, openly suggesting that, if you are not gifted, there is not much point in spending a lot of time (and money) on practicing for professions, education, sports, music and games, obviously is not regarded as politically correct.


もう一つの興味深い点は、日本の主流メディアはこのような話題をまず取り上げないであろうということだ。実証データがあろうがなかろうが、専門職・教育・スポーツ・音楽・ゲイムにおいて、才能がなければ練習に時間(とお金)を掛ける意味はないとあからさまに示唆することは、日本ではポリティカリーコレクトとは見られないからだ。


2014/07/02

PACIS 2014 @ Changdu(成都)

6月25日〜29日に中国の成都で PACIS (Pacific-Asia Conference on Information Systems) が開催された。
http://pacis2014.org
昨年の済州島大会の参加者は500人超、今年の第18回大会の参加者は600人超で、最近参加者が急増している。Association for Information Systems* (AIS) の前会長 Vogel 氏は「間もなく、世界の経営情報学研究者の過半がアジア太平洋地域の出身となる」と言っているが、その日はそれ程遠くないであろう。その位、アジア太平洋地域には勢いがある。

*英語の「information systems」は、日本語の「情報システム」よりずっと意味が広く、ITの経営への応用やIT組織、ITガヴァナンスまで含み、「経営情報学」にほぼ対応する。したがって、上記 AIS の国内関連学会は一般社団法人 経営情報学会となっている。


開会式

残念だったのは、アジア太平洋地域だけでなく米州や欧州、アフリカまで含む全600人超の参加者の内、日本からの参加は僅か5人!だったこと。このような状態で、どうやって世界に伍して行くことができようか。

当方で把握している日本からの参加者は以下の通り(他に参加者がいらしたら、ご一報下さい)。

神岡太郎氏(一橋大学)発表者
Jaehyun Park 氏(東京工業大学)発表者
櫻井美穂子氏(慶應義塾大学大学院生)Doctoral Consortium 参加
李 振 氏(神戸大学大学院生)
平野(早稲田大学)National Representative, PACIS Executive Committee 兼 Mentor, Journal Joint Author Workshop



Park氏の発表
神岡氏の発表


国際会議でアイディアを発表したり、共同研究や個人的な交際をすることは、ソフトパワーであり、国防にも寄与する。現実に、中国本土・台湾・香港・韓国等の研究者達が、領土問題や歴史問題に関係なく、一緒に活躍している。日本の存在感は極めて薄いから、他の手段に頼ろうという議論も出よう。自戒も込めて、一層の努力が必要である。

次回の PACIS 2015(シンガポール)からは、投稿して採択されなかった論文の為のワークショップ(メンターが改善法について指導してくれる)となるストリームができる予定である。日本人にとっては投稿しやすくなるので、経営情報学会会員は、是非投稿を計画されたい。

今年の Journal Joint Author Workshop の参加者





2014/06/19

Twitter では、人間とロボットを区別できない!

ツイッターなどの比較的短く、履歴の浅い(遠い昔の話まで遡らないで直近の発言に反応する)発言は、チャットボットが得意とし、人間とチャットボットの区別が難しい範疇である。

MIT Technology Review に掲載されている記事
によると、120個のロボットを使った実験では、まず最初の30日間にTwitter社によってロボットであることを発見されてアカウントを停止されたのは僅か38個だけで、7割のロボットは発見されなかったという。この間、これらのロボットは延べ約5000人(その内の何人かは他のロボットかも知ないが)にフォローされ、2割以上のロボットは100人以上のフォロワーを得ることができた。Twitterの人間全ユーザーのうち46%しか、100人以上のフォロワーを持っていないことを考えると、素晴らしい結果である。また、Twitterにおける影響度を測るKloutという指数があるが、この研究者によるとロボットは有名な学者やソーシャルネット研究者並みのKloutを稼いだそうである。

これが意味していることは、企業側としては、Twitterロボットの悪用により、あたかもその企業の製品やサービスの人気があるかのようなニセの世論を作り上げることもできるが、同時に、競合企業のロボットにより戦略を誤らされる(例えば、競合にとって怖くない劣った製品やサービスの人気があるようなニセの世論を作られて、資源配分を誤るなど)ような可能性もある。Tweetのテキスト分析は、どこまで信用して良いのか分からないということだ。

ここまで人工知能が発達すると、140文字に拘る限り、効果的な対策は難しい。取り締まりを強化すると、本物の人間のアカウントを誤って停止してしまう確率が大きくなるからである。したがって、Twitterや他のSNSのテキスト分析に基づくビッグデータ活用には注意が必要となろう。

2014/06/18

論文査読システムの制度疲労

学会における論文査読システムは、
(1)査読者は、負担がやたら重い割りに恵まれず、
(1a)そのお陰で、編集者は査読をやってくれる人を捜すのが結構大変で、
(2)さらに採択(あるいは棄却)の判断まで時間が掛かり、
(3)さらに出版までに時間が掛かり、
ということで、「時代に合わなくなってきた」と言われて久しい。

かといって、全て事後査読にするとなると、
(1)玉石混淆の論文が溢れることになり、
(2)良い論文が埋もれて発見されない確率が増加し、
却って世の中のためにならない。

どうしたら良いか、皆で考え直す時期である。
どなたか、画期的な名案はありますか?

http://www.economist.com/news/science-and-technology/21604089-two-big-recent-scientific-results-are-looking-shakyand-it-open-peer-review