パンカジ・ゲマワット著(望月 衛:訳)、文芸春秋社、2009
Pankaj Ghemawat (2007), Redefining Global Strategy: Crossing Borders in A World Where Differences Still Matter, Harvard Business School Press
かつては、レヴィット(『市場のグローバル化』1983年)や大前(『トライアド・パワー』1985年)が、そしてケアンクロス(『距離の死』1997年)を経て、最近ではフリードマン(『フラット化する世界』2005年)等の論者が、世界は均一化してきていると主張していて、恐らくこれは多数の認識であろう。しかし、ハーバードビジネススクールの俊英教授ゲマワットは、データに基づいて、この多数派説に真っ向から異を唱える。
データに依れば、グローバルなM&Aが喧伝されているにも拘わらず、2000年代初頭において、対外直接投資が世界の固定資産形成に占める割合は10パーセント以下であるし、国際電話比率や海外からの観光客比率、海外株式投資比率などいずれも10パーセントを大きく超えることはない。また、トヨタやウォルマートに代表される多くの多国籍企業は、その利益の多くを母国で得ている。すなわち、実際の世の中は、ある程度グローバル化しているが、完全にグローバル化(またはフラット化・均一化)している訳ではない。この状態を著者は「セミグローバル化」と名付ける。
従来の国際戦略論は、世界がグローバル化したというイデオロギーに基づいて作られているので有効ではないと断じ、著者はセミグローバル化した世界という事実を前提とし、「市場や世界の均一化」ではなく「国や社会の間に厳然と存在する差異」を利益の源泉と考える新しい国際戦略論を提示する(原題は『国際戦略の再定義』)。
前半では、以上の事実確認とともに、国や地域ごとの差異を測定・考察するための枠組み(CAGE)とクロスボーダー戦略の有効性を評価する枠組み(ADDING)が説明され、後半では、セミグローバル化した世界で差異を活用するための3つの戦略オプション(AAA)が解説されている。経営者やビジネスマンが、「国際化して利益をあげられるのか」「そもそも何のために国際化するのか」等を根本的に考え直すための強力な枠組みを提供している。
翻訳は概して適切だが、文中に ADDING の原語の説明がほとんど無いことがやや不親切で残念。また、著者が万有引力の法則を間違っている(引力は「距離」に反比例ではなく「距離の2乗」に反比例する)のはお愛嬌である。
[週刊「ダイヤモンド」誌 2009年8月15/22日号 p.124 掲載を一部編集]
Ordinary organisational members, extraordinary organisational results! 普通の組織成員で、素晴らしい組織成果を!
2010/01/30
2010/01/25
Carrots work better than sticks?
An interesting application of the findings from behavioural economics.
According to the article in the "Economist", Chinese managers in an electronics factory responded more positively (eagerly) to the bonus scheme when they were entitled to a bonus but would be deprived if they had failed to achieve the target, than when they were offered the same amount if they had achieved the same target. The results were consistent over the time.
People react so differently to different "wordings" of the same condition. I should have learned this much earlier ...
http://tinyurl.com/yd9xlyk
According to the article in the "Economist", Chinese managers in an electronics factory responded more positively (eagerly) to the bonus scheme when they were entitled to a bonus but would be deprived if they had failed to achieve the target, than when they were offered the same amount if they had achieved the same target. The results were consistent over the time.
People react so differently to different "wordings" of the same condition. I should have learned this much earlier ...
http://tinyurl.com/yd9xlyk
2010/01/22
トヨタのリコール
本日、米国におけるトヨタ車のリコールが伝えられた。今回は、230万台、昨年秋以来426万台のリコールを実施中。昨年は夏に中国でも69万台のリコールをしている。いずれの場合も現地生産車が対象だそうで、こうなると偶発的というより、組織的な問題の可能性が大きくなる。
トヨタの場合は、トヨタ方式といわれる生産管理の仕組みがしっかりしているとされていて、他の日本企業と比較した場合には属人的な管理の要素は少なめなのかも知れないが、それでも海外にオペレイションを持っていって、急速にスケイリング(規模増加)を行う能力には不安がないとは言い切れない。日本企業は、仕組みの構築に力を入れるより、優秀な従業員を採用・社内育成することにより、属人的な管理でオペレイションを行おうとする傾向がある。すなわち「組織は人なり」だと思っている。しかし、このやり方が機能するためには「適切な人材の十分な供給」と「相応しい育成方法が分かっている」ことが前提となっていて、これらの条件が満たされない場合には、大変に厳しいことになる。
因みに、筆者は、企業などの組織体から組織成員を除いた残り(意思決定ルールやコミュニケイションのネットワーク。経済学で言うTFPのようなもの)を組織と定義している。
トヨタの場合は、トヨタ方式といわれる生産管理の仕組みがしっかりしているとされていて、他の日本企業と比較した場合には属人的な管理の要素は少なめなのかも知れないが、それでも海外にオペレイションを持っていって、急速にスケイリング(規模増加)を行う能力には不安がないとは言い切れない。日本企業は、仕組みの構築に力を入れるより、優秀な従業員を採用・社内育成することにより、属人的な管理でオペレイションを行おうとする傾向がある。すなわち「組織は人なり」だと思っている。しかし、このやり方が機能するためには「適切な人材の十分な供給」と「相応しい育成方法が分かっている」ことが前提となっていて、これらの条件が満たされない場合には、大変に厳しいことになる。
因みに、筆者は、企業などの組織体から組織成員を除いた残り(意思決定ルールやコミュニケイションのネットワーク。経済学で言うTFPのようなもの)を組織と定義している。
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