以前に、経営情報学分野の国際会議に日本人参加者が少ないということを嘆いた。
現在、Japan Association for Information Systems(JPAIS、経営情報学分野では世界で最も重要な Association for Information Systems (AIS) の日本支部)と経営情報学会で、2018年に Pacific-Asia Conference on Information Systems (PACIS) を招致しようとしていて、その戦略を考えるための基礎資料として、日本人が経営情報学の国際会議にどの程度参加しているかを計量的に分析してみた。
対象は、経営情報学で最も重要な会議である、International Conference on Information Systems (ICIS) の2012 (Orlando)、2013 (Milan)、2014 (Auckland) の3年分の登録者リストからデイタを採った。これは、ICIS では世界を3地域に分割して、毎年各地域を順に廻って開催されるので、3年分を採ると、地域の片寄り(どうしても開催地の近くの参加者が増える)の効果を打ち消すことができるからである。登録者リストには、国籍(勤務地ではない)が出ているので、3年間を通して参加者のあった国について、会議当たりの平均を計算する。ICISの総参加者数は、毎回 1,200-1,400人位で、比較的安定している。
参加者(A)を決定するモデルとしては、3変数の単純なモデルを考えた。
1.そもそもの人口:P(大きい国からは、他の条件が同じならば、多数の参加者が期待できるだろう)
2.一人当たりのGDP:G/P(テーマがITの利活用であるので、豊かな国の方が興味もあり、参加者も相対的に多いであろう)
すると、A/P = ƒ(G/P) となるので、ƒが線型であれば、これは A = ƒ(G) とできる。つまり、参加者数はその国のGDPの関数となる。このモデルの妥当性を確認するために、上記で得られたデイタを当てはめて回帰分析してみよう。
全体の結果は下に提示しているが、以下を見取ることができる。
(1)このモデルの妥当性はかなり高く、全般的に参加者数の差はGDPの差によって7割程説明でき、参加者数はGDPによって説明できると99.9%以上の確度で信じられる。下に述べる事由により、もし日本を外して分析したら、GDPの説明力はもっと高くなると予想される。
(2)モデルから想定される理論値より参加者が多い国(下のグラフで赤線より上にある点)は、米国・ドイツ・香港・シンガポール・オーストラリア・ニュージーランド等であるが、総人口との比率で考えると、香港やシンガポール・ニュージーランドの「出超(赤線からの上方乖離)」が際立っている。
(3)逆に、モデルから想定される理論値よりも参加者が少ない国(下のグラフで赤線より下にある点)は、日本の他、ドイツや北欧を除く欧州諸国・中国・インド等である。しかし、中国やインドは発展段階も異なるし、そもそも人口が大きいので、人口との比率で考えると「入超(赤線からの下方乖離)」の水準は大きくない。G7等のメンバーである英国・フランス・イタリアと日本を比較すると、これらの国の人口は大体日本の半分であるから、「入超」の程度は余り大きく異ならないということもできる。しかし、アジア太平洋地域で見ると、日本は圧倒的に参加者が足りないということが見て取れる。理論値では、約100人参加せねばならないので、現状では90人程不足である。
ここで見ているのは、参加者だけで、実は発表数は見ていない(発表数のデイタを作るのが大変なため)。発表数で比較すると、日本の「入超」はずっと大きくなる。つまり、一言で云うと、「日本の経営情報学界は、十分な国際的貢献をしていない」。
さらに言えば、これは経営情報学に限ったことではなく、日本の多くの人文社会科学系の学界においても同様の傾向が見られるのである。このようなデイタも、最近文科省や財界から出てきている「大学における人文社会科学系学部の不要論(このテーマについては、近々別稿としたい)」に根拠を与えることになろうから、反発を覚える同僚も少なくないだろう。しかし、現状の改革には、まず現状を正確に認識することが不可欠である。経営情報学会とJPAISでは、PACIS 2018 招致をテコにこの状態を大幅に改善して、まずは国際貢献の均衡化を目指そうとしている。
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