2015/01/04

「創造的人材の育成」について

過日、野生のシジュウカラの集団において知識が伝承され、また、個体は集団の知識に同調(文化を伝承するという実験結果を紹介した。

実験では、森の中に右からも左からも開けられるえさ箱を複数置いておくと、シジュウカラは、集団毎に右または左からえさ箱を開けるやり方を共有する(「文化」と呼ばれる)が、このことは他の野生動物の集団でも観察されていて、これ自体は新しい知見ではない。驚くべきは、例えば、右からえさ箱を開ける集団にいる個体を、左からえさ箱を開ける集団に入れると、この個体は新しい集団に同調して、左からえさ箱を開けるという行動を採るようになる、ということである。つまり、シジュウカラは集団内で同調行動を採っているのである。

集団の生存戦略として考えると、少数の探索的(創造的)シジュウカラの個体がえさ箱を調べて開け方を発見するのだが、集団内の多数の個体は、改めて新しいえさ箱の開け方を探索することなく、他の個体により発見された開け方を模倣して、このやり方が集団内で共有される。もし、集団が同調者(模倣者)のみで構成されていれば、えさ箱を開ける方法は発見されないままとなる。他方、もし集団が探索的(創造的)個体ばかりで構成されていれて他の個体から学ぶことがなければ、各個体がそれぞれ探索行為を通じてえさ箱の開け方を発見することになる。この二つの極端なケイスはいずれも集団生存のためには効率的でなく、一定割合の個体が探索的(創造的)で新しいやり方を発見し、多数の個体がこれら探索的(創造的)個体の発見を模倣することが、集団の生存戦略としては効率的である。恐らく、進化過程を通じて、集団において最適な探索的(創造的)個体の比率を持つ種が、生き残ってきたと考えられる。


世の中は、ビジネスでも教育でも「創造的人材を育成する」というテーマが流行であるが、人類が地球でこれだけ生存し、多種を支配してきたことを考えると、人類における探索的(創造的)人材の現在の自然の比率は、恐らく生存戦略として効率的なのだと考えられる。勿論、各産業や社会の場面に応じて、最適な探索的(創造的)人材の比率は異なるであろう。とても、探索的(創造的)な外科医に手術をして貰いたいと思う患者は多くないであろうし、区役所の窓口の担当者がとても探索的(創造的)で、案件毎に異なる処理をされては困るであろう。とても探索的(創造的)なパイロットが操縦する飛行機は、事故も多いであろう。また、グーグルであればより大きな探索的(創造的)人材比率が最適であろうし、安定的な業界であればより小さな探索的(創造的)人材比率が最適であろう。いずれにしろ、万が一、国民の全員はおろか、大多数が創造的人材であるような社会になれば、社会全体の効率が極めて悪くなり、社会そのものの生存に関わるであろう。The Economist 誌も「創造性を強調する職場は問題が多い」としているし、J.G. March も exploration と exploitation とのバランスを強調したが、無闇に創造的人材を育成することが、社会・組織・集団の発展と生存に寄与するという保証は全くないのである。

No comments:

Post a Comment