「わが国は大企業が首都に集中しすぎている」という意見があるが、現状では国際的に見て必ずしもそうは言えない。むしろ、これから集中化が進むのである。
日本の大企業を代表する日経225の企業リストを見ると、本社が首都圏にあるものは7-8割程度であろうか。これに対して、英国の大企業を代表するFT100やフランスの大企業を代表するCAC40のリストを見ると、その大半が首都に所在する。一方、アメリカやドイツの大企業の集中度はかなり低い(アメリカでは多数の大企業の登記上の本社はデラウェア州にあるが、これは税法上の理由によるものであり、実質的な本社機能はあちらこちらにある)。 この違いは、もちろん経済の現状だけではなく、それぞれの国の歴史的な事情も反映している。イギリスやフランスは昔から一極集中型の政治経済であったし、アメリカやドイツは今でも連邦制である(ドイツは1871年のプロイセンによる統一以前は、小国の集まりであった)。 日本は、信長・秀吉によって統一されている。
この事情は、各国の鉄道網を見てみると、目で確認することができる。アメリカやドイツは、網状の鉄道ネットワークが発達しているのに対して、イギリスやフランスは首都を中心に放射状に鉄道網が発達している。イギリスやフランスでは、隣の町に移動するときにも、鉄道で直接向かうよりは、一旦ロンドンやパリに出たほうが速いことが多い。これらの国では地方から地方へ移動するのに、自動車やコウチ(バス)が多用される所以である。 ところが日本の鉄道網は、東京や大阪等の拠点都市をハブとする hub and spokes 型のネットワークとなっている。 つまり、鉄道網の形が「アメリカやドイツは分散型、イギリスやフランスは集中型、日本はそれらの中間型という企業配置」と、見事に相関しているのである。
この事実から予想される事は、今後わが国で整備新幹線などによって鉄道網が整備されていくと、企業の首都集中化はますます進むだろうということである。EUでも見られているように、資本や労働の移動障壁が低くなると、域内は均一化するのではなく、逆に域内の差異が大きくなっていく(「経済学101」で習った、リカードの「比較優位性」である)。つまり、経済の首都集中化と地方の経済的な過疎化が一層進むのである。これにより、地方ではその地に特化した産業以外の一般的な産業はなくなっていく。一方、首都圏ではそこに居ることの経済的価値が高まると共に生活コストも高くなっていくために、引退した人などには住みにくくなっていくと思われる。したがって「首都圏は経済活動、地方は居住や観光およびその地に特化した産業」を主とするという棲み分けになっていくであろう。イケダハヤト氏もブログ(http://www.ikedahayato.com)に高知の住みやすさを書いているが、地方都市では、居住や観光を支えるためのサービス産業等も発達するであろうし、コンパクトで生活費も安いことにより、退職後の老人などにも住みやすくなると思われる。もし本気で地方に全般的な産業を復興させて自己完結経済圏に戻したいのならば、交通や移動を不便にして日本を分断するしかない。