2013/02/03

【書評】『ワーク・シフト』

Gratton, L. (2011), The Shift, Collins
池村千秋:訳(2012)『ワーク・シフト』プレジデント社


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もし、あなたの十代の子供達が「将来、ジャーナリストになりたい」「僕は、医者」と言ったら、親としてはどうアドバイスすべきだろうか?

これが、本書の元となったプロジェクトのきっかけだそうだ。著者は、英タイムズ紙の「世界のトップビジネス思想家15人」の一人に選ばれるなど、多くの賞を受けている、ロンドンビジネススクール教授(組織行動論)。企業・官庁スポンサーのコンソーシアムを組んで、2025年の仕事はどうなっているであろうか、と研究したまとめである。

まず、「技術」「グローバル化」「人口動態」「社会」「エネルギー・環境」の五分野にわたって、2025年の仕事のあり方に影響を与えると考えられる二十三のトレンド(たとえば、「都市化が進行する」「エネルギー価格が上昇する」など)が提示される。そして、 これらのトレンドを組み合わせることにより、2025年に世界のいろいろの場所にいるいろいろの職業の人々(例えば、ムンバイにいる脳脳外科医や、チッタゴンにいる米国人のソーシャルワーカーなど)について、  1990年頃の状況を振り返り、トレンドを現在から2025年に外挿して、彼らの仕事のやり方や生活の様子、何を考え、何が心配で、何が楽しみか、などの状況を一貫性のある絵として描いてみせる(多くの端布からパターンを生み出すパッチワークキルトに例えている)。これらの状況記述には、現在のトレンドがそのまま続いたときの悲観的なシナリオ5本と、現在のトレンドに対する積極的な介入に成功したときの楽観的シナリオ3本が用意され、最後に、筆者が有効と考える3つの対応法(「ジェネラリストから、連続スペシャリストへ」「孤独な競争から、協力して起こすイノベーションへ」「大量消費から、情熱を傾けられる経験へ」、筆者をこれらを「シフト」と呼ぶ)が説明される。

本書は読み物として刺激的にできているが、実は、環境について重要なトレンドを自分なりに加えたり、これに基づいて自分なりの悲観的なシナリオと楽観的なシナリオを作って、今何をすべきか考えるという、シナリオ計画法のワークブックとして使うときに、その真価を発揮する(著者もこれを奨めている)。ノウトを開いて、あなたとあなたにとって大切な人々の将来の仕事について、今後五年間に何をすべきか考えてみよう。

[本稿は、週間『ダイヤモンド』誌、2012年9月10日号、書林探索への投稿を基にしている]

2013/02/01

報道の自由度と新聞・雑誌への信頼度

最近フェイスブックのタイムラインを見ていたら、「報道の自由度の国際比較」をシェアしている友人と、「新聞・雑誌への信頼度の国際比較」をシェアしている友人がいた。

  (1)報道の自由度
  (2)メディアに対する信頼度

そこで、これらを組み合わせてみたらどうなるか、考えてみた。

人々が合理的であれば、「報道の自由度が高い国では新聞・雑誌への信頼度が高い(幸せな社会)が、自由度が低い国では新聞・雑誌は信頼されない(現実主義)であろう」と予測した。

さて、組み合わせた結果が、表である。資料(2)には24カ国のデイタが出ているので、資料(1)からこれらの24カ国を拾い、自由度も信頼度も共に2分割(12カ国ずつ)となるように4つのセルに分けたものである。それぞれのデイタは、スコアではなく順序を使って分類する順序統計で、国名の後の前の数字が報道の自由度の国際比較順位、後ろの数字が新聞・雑誌への信頼度の国際比較順位である。






事前予測は見事に外れ、大半の国(24カ国中20カ国)は、「報道の自由度は高いのにもかかわらず、新聞・雑誌への信頼は低い(シニック)」または「報道の自由度は低いにもかかわらず、人々は新聞・雑誌を信頼している(メディア過信)」のどちらかである。

なぜ、こうなるのか?

もしかしたら第3の変数(例えば、経済や社会)が、両変数に影響を与えているかも知れないが、この表だけを見て考えられる一つの仮説は、

メディアに対する信頼度が低い社会では、メディアは何とか信頼を得たいと、報道の自由のために戦ってこれを獲得しようとするが、メディアの信頼度の高い国では、特に戦う必要もないので、報道の自由が失われるままになる(あるいは最初から存在しない)

ということではないであろうか。表の右上セルにある国は、自由度の高い報道でも眉に唾をつけて吟味するメディアリテラシーの高い社会、左下セルの(日本を含む)国は、自由度の低い報道を鵜呑みにする危うい社会と言えよう。支配者や広告の大スポンサーにとっては、大衆を操作しやすい社会ということで、(2)の調査が電通によって為されていることも意味深ではある。