池村千秋:訳(2012)『ワーク・シフト』プレジデント社
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もし、あなたの十代の子供達が「将来、ジャーナリストになりたい」「僕は、医者」と言ったら、親としてはどうアドバイスすべきだろうか?
これが、本書の元となったプロジェクトのきっかけだそうだ。著者は、英タイムズ紙の「世界のトップビジネス思想家15人」の一人に選ばれるなど、多くの賞を受けている、ロンドンビジネススクール教授(組織行動論)。企業・官庁スポンサーのコンソーシアムを組んで、2025年の仕事はどうなっているであろうか、と研究したまとめである。
まず、「技術」「グローバル化」「人口動態」「社会」「エネルギー・環境」の五分野にわたって、2025年の仕事のあり方に影響を与えると考えられる二十三のトレンド(たとえば、「都市化が進行する」「エネルギー価格が上昇する」など)が提示される。そして、 これらのトレンドを組み合わせることにより、2025年に世界のいろいろの場所にいるいろいろの職業の人々(例えば、ムンバイにいる脳脳外科医や、チッタゴンにいる米国人のソーシャルワーカーなど)について、 1990年頃の状況を振り返り、トレンドを現在から2025年に外挿して、彼らの仕事のやり方や生活の様子、何を考え、何が心配で、何が楽しみか、などの状況を一貫性のある絵として描いてみせる(多くの端布からパターンを生み出すパッチワークキルトに例えている)。これらの状況記述には、現在のトレンドがそのまま続いたときの悲観的なシナリオ5本と、現在のトレンドに対する積極的な介入に成功したときの楽観的シナリオ3本が用意され、最後に、筆者が有効と考える3つの対応法(「ジェネラリストから、連続スペシャリストへ」「孤独な競争から、協力して起こすイノベーションへ」「大量消費から、情熱を傾けられる経験へ」、筆者をこれらを「シフト」と呼ぶ)が説明される。
本書は読み物として刺激的にできているが、実は、環境について重要なトレンドを自分なりに加えたり、これに基づいて自分なりの悲観的なシナリオと楽観的なシナリオを作って、今何をすべきか考えるという、シナリオ計画法のワークブックとして使うときに、その真価を発揮する(著者もこれを奨めている)。ノウトを開いて、あなたとあなたにとって大切な人々の将来の仕事について、今後五年間に何をすべきか考えてみよう。
[本稿は、週間『ダイヤモンド』誌、2012年9月10日号、書林探索への投稿を基にしている]