英国のEU離脱を「不合理」「理解できない」とするコメントが、主として経済人・ビジネス人から怒濤のように出されているが、これ(と他の国でも起こりつつある反体制運動)は、行動経済学で普遍的に観察されている「自分が損をしても、他人の unfair な利益を罰する」という行動の典型的事例ように見える。
つまり、コメントを出している人達は、エスタブリッシュメントに所属していて、(主として自分達の)経済的な損得だけからしか状況を見ていない。「マクロ経済的に、EU残留の方がメリットがある」「グロウバル経済にとって、EU残留の方のメリットがある」と言ったところで、そのメリットの大半が、英国および世界のエスタブリッシュメントのものになることは、見え見えである。現状から経済的なメリットを得ていない(と感じている)非エスタブリッシュメントから見れば、エスタブリッシュメントだけが経済的メリットを享受するようなシステムを支持する理由はない。トリクルダウン効果が無いことも、別に経済学者に実証してもらわなくても、実感として分かっている。貧富の差は大きくなるばかり。非エスタブリッシュメントにとっては、離脱による経済的損失は僅かなもので、大損するのはエスタブリッシュメントと認識されている(「ざまを見ろ!」)のである。非エスタブリッシュメントの大衆が「エスタブリッシュメントの一方的経済利益を罰した」と言える。
そもそも富の偏在がここまで非道くなっていなければ、このような結果にはならなかっただろうし、EU残留の発言をしていた人が(私の知る限り)全員エスタブリッシュメントだったというのは、広報戦略上の大きな誤りだったと思う。今回のキーワードは、「resentment」あるいは「不公平感」で、そこにはマクロ経済的合理性はない(これこそ、まさに行動経済学が発見したことである!)。エスタブリッシュメントのEU残留派はこのことに全く思いが至らず(=エスタブリッシュメントの劣化)、非エスタブリッシュメントにとっては最重要事である「分配」を議論することなく、マクロ経済的合理性の議論だけで乗り切れると踏んだところが敗因だったと考えられる。「Occupy Wall Street」やトランプ氏の勢いなどにも同様の心理が見て取れ、世界的なエスタブリッシュメントの劣化と共に社会分裂しつつある現在に共通する問題とも言える。