2015/07/24

日経によるFT買収は、吉か凶か?

昨夜、日経が Pearson から FT グループを買うというニュースが流れた。

日経の狙いは何だろうか? FT誌の全世界の発行部数は日経の国内発行部数の約3分の1に過ぎないが、世界における影響力の大きさは比較にならない。これで、日経はFTという世界的ブランドを買ったことになるのだろうか?

今までもFT誌の論調はしばしば、日経とは異なったり対立したりして、日本政府や日本の企業制度に批判的な記事が少なくない。ここ数年の日本の主要マスコミのあり方や現在の論調からすると、このFTの独立性は恐らく許し難いものであり、遠からず編集方針の独立性は侵されるであろう。日本政府は許さないだろう(実際に、既に自民党は、FTを通じて自分達に都合の良い記事を世界に流せると期待している。http://tinyurl.com/oz7zwl9し、日経にはそれに対抗して編集方針の独立を守る気概も矜恃も期待できない。

これに関連して思い出すのは、1980年代に Murdock 氏が The Times 誌を買収した頃の英国の新聞界である。Murdock 氏が編集方針に横やりを入れるであろう事はほぼ明らかで(実際に、その後横やりを入れた)、The Times 誌が編集の独立性を失って「単なる保守系新聞」になり下がるであろうことは多くの人が予想した。そして、この期に Telegraph 誌から独立した人達が The Independent 誌を創立したのである。新しい The Independent 誌は、The Times 誌に嫌気をさした多くの優秀なスタッフを手に入れ、独立系新聞として黄金期を築いた(その後、経営不振に陥ったが)。

英米のジャーナリスト達はわが国のブン屋さん達のようにヘタレではないから、遠からず多くの優秀なスタッフはFT誌を去るであろう。私は、この時に、英字経済新聞界の再編成が起きると予想する。勿論、1980年代とは技術背景が異なるので、新しい英字経済誌は何らかの形でインターネット・ベイスとなるであろう。紙はもう使わないかも知れない。

最初の質問への私の答は、以下の通りである。
●FTにとって:凶(ブランドを毀損し、優秀なスタッフも失う)
●日経にとって:極く短期的には吉(日経の実力とは全く水準の異なる世界的なブランドを手に入れる)だが、中期的には?(FTのブランドは毀損され、損をするが、高い授業料を払って国際化を「経験」できればトントン、できなければ凶)
●Pearson にとって:大吉(Springer と日経を競わせて、事業ドメインが合わず経営状態が余り良くなかった FT をやっかい払いできた。その内に、The Economist(の半分)も売却?)
●Springer にとって:中長期的には小吉(短期的にはがっかりかも知れないが)
●世界の読者にとっては:?(FTの価値はなくなるが、新しい独立系経済メディアが立ち上がれば、大いに吉)

この記事は、ずっとここに置いておくので、数年後に私の予測がどうなっているか、是非再訪して戴きたい。私自身は、残念ながら、1970年代から親しんだピンクの新聞を読むことはなくなるであろう。