2012/11/01

【書評】『つながりすぎた世界』


Davidow, William H. (2011), Overconnected, Headline Publishing Group, London
酒井泰介・訳『つながりすぎた世界』ダイヤモンド社, 2012
------------- 19世紀の中頃までには、シカゴは全米の交通の要衝となっていた。しかし、シカゴの地位を決定的なものしたのは、鉄道である。鉄道網がシカゴを中心に伸びていき、西部からの食品はシカゴを経由して東部に送られた。牛もシカゴに集められて、貨車に積まれ東部に送られたが、輸送中に痩せたり死亡するだけでなく、東部で解体されたときには内蔵など価格のつかない部分の方が多かった。この非効率性に目を付けたスウィフトは、19世紀終わりに冷蔵貨車を開発して、シカゴで解体した精肉のみを東部に送るという技術革新を実現した。これにより、家畜輸送業者や東部の解体業者は中抜きされ、シカゴには資材・食品・交通関連業者・流通業者等々がますます集積し、世紀の変わり目にはマーカンタイル取引所もできて、経済の中心地となった。これは、技術と正のフィードバックが社会の結合状態を高めることにより社会が進歩した好循環の例である。 現在は、シリコンバレーがIT産業集積の中心となり、鉄道時代の代表的通販業者だったシアーズはアマゾンに取って代わられるなど、インターネット技術と正のフォードバックによる社会の変革が続いている。しかし、1世紀前の変革との違いは、現在では余りにも速くかつ強く正のフィードバックが掛かるために、われわれが制御できないほどまでに社会の結合状態が強まってしまい、かえって社会的に危険な状態が発生しているというのが著者の主張である。過剰結合により、アイスランドの金融バブルと崩壊や米国サブプライム問題など、多くの大規模な社会的、経済的、技術的問題が起こされているという。失敗や大規模システムに関する先行研究を渉猟した上で、過去に戻って既存の過剰結合をなくすことはもう出来ないので、
①正のフィード バックの程度を下げることにより、事故を減らし、思考感染を緩和し、全体的に予期せぬ結果を減らす、
②より強靱で事故を起こしにくいシステムを設計する、
③既にある結びつきの強さを認識し、社会制度をより効率的・適応的なものにする
ことを目指すべきであるとする。

著者は、電気工学の博士号をもち、インテル、HP、GEを経て、ベンチャーキャピタリストとして成功している。原書にある「原発はそもそも危険なシステムだから最初から作るべきではない」という箇所は、何故か訳書からは除かれている。


[本書評は、「週刊ダイヤモンド」誌 2012年7月14日号「書林探索」に掲載された原稿を基にしている]